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第66回日本東洋医学会学術総会 参加報告「前立腺肥大症」

6月12日~14日、富山県において日本東洋医学会学術総会が開催されました。

14日(日)口演発表をして参りました。相変わらずの緊張っぷりでした・・・。

通常は、守秘義務があり患者さんの事は口外出来ない。しかし、今回の症例は、患者さんより「うまくいったらどっかの学会で発表してよ」と言われていたので、発表させていただいた。またホームページにも書かせていただく事にした。

 

演題
「脈証に基づく鍼灸施術により前立腺肥大症患者の症状とPSA値が緩和した一症例」

[緒言]
現在、日本の55歳以上の男性の5人に1人は前立腺肥大症の症状が見られると言われている。
(前立腺肥大症の診療ガイドラインなどを拝見いたしますと、患者の主観に頼らざるをえないのが現状と考えられます。主観や感覚といった曖昧なものに頼らなければならないと言うことは、施術側が明確な基準を持って対応できなければ、それは目隠しをした人が、目隠しをした人に手を引かれながら歩くようなことになってしまいます。)
今回は、本症を持つ一症例に対して、脈証に基づく鍼灸施術を行うことで、患者のQOLを上げる可能性が見出せたので報告する。

[症例]
58歳、男性。市販の総合感冒薬(かぜ薬)を服用後に尿閉となる。泌尿器科で前立腺肥大症と診断。ハルナールDを服薬。
(所見)色白。肥満(手足は細いが、腹部が肥。肋骨の幅より広く、高さもある)。声は高く小さい。食事は不規則(食事時間も、食事の量も不規則。食べ歩きが好き)。睡眠不足による倦怠感あり。

[施術]
初診x年10月。人迎気口診は労倦虚風の順(脈、左右ともに浮にして濇。右の脈が強い)六部定位診は腎経虚証。
陰谷、復溜、天井、支溝へ接触鍼。(前田豊吉商店の長柄鍼、銀・井上式・毛鍼を使用)施術後に脈が沈む。天枢、関元、脾兪、腎兪、大腸兪へ知熱灸。当初は前立腺肥大症に効能があるとされる次髎への灸頭鍼(刺激を少なく抑えるために、ステンレス・寸3の1番鍼を使用)や失眠や裏内庭への知熱壮(点灸を患者が熱さを感じるまで据え続ける。冷えと浮腫みに対して使用していた。)も施すが、治療の回数を重ねるごとに灸法を減らし、灸頭鍼もx年12月で中止し、知熱灸へ変更。週に1回の頻度で治療。

[経過]
●x年10月下旬、(人迎気口診)労倦虚風の順(脈、左右ともに浮にして濇。右の脈が強い)腎経虚証。PSA値9.67
●x+1年2月初旬、(人迎気口診)労倦湿症のやや逆(脈、右浮にして滑、左沈にして滑。右の脈が強い)腎経虚証。腹圧をかけずに排尿(できるようになる)。薬が一番軽いものになる。
●同年3月中旬、(人迎気口診)血虚湿症の順(脈、左右ともに沈にして濇。右の脈が強い)腎経虚証。(腎)結石による激痛。
●同年7月中旬、(人迎気口診)気虚寒湿の逆(脈、左右ともに沈にして濇。左の脈が強い)肺経虚証。PSA6.0。
●同年8月末、(人迎気口診)労倦湿症の順(脈、右浮にして滑、左沈にして濇。右の脈が強い)前日排尿時に直径約5mmの石を排出。(排出時痛み無し)
●同年9月下旬、(人迎気口診)気虚寒湿の逆(脈、左右ともに沈にして濇。左の脈が強い)肺経虚証。PSA5.7

脈が沈むにつれて排尿が改善。ただ、脈状が血燥湿燥(脈、左右ともに沈。右の脈が強い。数脈〈一呼吸の間に4拍以上の拍動がある。寒熱でいえば熱を、また病状が慢性化していることを現す〉)や労倦湿症(脈、右浮、左沈、右が強い。右の脈が浮いていることは陰虚を現す。)のような数脈や浮脈に変わると頻尿気味となる。

全体的には寝つきが良くなり、身体の倦怠感が減少、前立腺の圧迫感が減り、長時間の労働も苦にならず。(長時間のデスクワークや、片道1時間の自動車通勤も平気になった。たまに自転車に乗ってみようかなと思う。とのこと。)

[考察]
一症例ではあるが、患者の外見や症状より推測される順(順逆〈順・良い。合っている。←→  逆・悪い。合っていない。〉)の脈状(該当患者の場合は気虚寒湿の肺経虚証)に近づくと、全身状態に改善が見られた。

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