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治療ってなんなんでしょうね。

江戸時代の古典落語に、『たいこ腹』という有名な演目があります。

若旦那が暇にまかせて鍼を覚え、何でも言うことを聞く太鼓持ちを相手に、初めて人体実験を行って、腹の皮を破ってしまうという失敗談です。

これは暗に、ツボさえ分かれば誰でも鍼を打てることを風刺したパロディでした。

「鍼灸」とは、江戸時代には病気を治すための代表的な治療法であり、古代から永い時間をかけて蓄積されたきた膨大なノウハウがそのベースとなっていることが、他の医療行為とは異なる大きな特徴です。

ところが、このノウハウ(対症療法)だけに頼りすぎて、「体のなかで何が起きているのか?」「その治療がなぜ効くのか?」といった基本的な理論があいまいにされてきたという歴史的経緯があったのも事実です。

一般的に、鍼灸とは「言葉では説明できない神秘的な経験医療」だと思われがちですが、実はその背景には緻密で合理的な理論体系が存在していたのです。

鍼灸には様々な流派が存在しますが、純日本産の治療「経絡治療」のひとつである「井上系経絡治療」という流派があります。

「井上系経絡治療」は、この基礎理論体系の中でも特に、

【蔵象】つまり“体の内部の状態”の把握と、

【病證】つまり“病気の全体像”の解明に重点を置いた一派であり、

昭和の初期に井上恵理、本間祥白らによって確立され、1970年代に井上雅文らによってより明確に体系化されました。

基礎理論を明確にすることは、臨床療法においての応用動作も明らかになってきます。

つまり、鍼灸による病気治療は、マニュアル化できるほど単純明快ではないということです。

このことを知っていたからこそ、江戸時代の人たちも若旦那を笑い者にしたのかもしれません。

しかし、この混沌とした情報過多の現代で、振り回されながら生きている私たちは、果たして若だんなを笑えるのでしょうか。

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