からだのめぐりと鍼灸
治療院の入っているマンションには噴水がある。
今のように暑い日に、噴水が止まっていると、すぐ藻のようなものが浮いてくる。
水が流れ出すと、何事もなかったかのように、噴水から水が溢れ、下へ下へと流れていき、また吸い上げられては噴水から水が溢れ出しては下へ流れ落ちる。
東洋医学では、人間の身体に河のようなものが流れていて、それが滞ると病になると言われている。
流れが滞れば、河の水は濁る。
水が濁らないのは、一定の場所に留まることなく流れているからこそであるという考え方だ。
ではその水を流しているのは何かといえば、東洋医学では「気」というものになる。
気がきちんと「めぐる(循環する)」から、水も流れる。
鍼灸の役割は、この滞りを解消し、身心の状態を最適な状態に近づけていくことだ。
東洋医学では、世の中は全て気の離合集散であるという。
とはいえ、「なんだそりゃ」と思う人が殆どであると思う。
そもそも「気」とはなんだ?
「気」なんてものは存在するのか?
「気」は目には見えない。そんな見えないものを言い出しておちょくっているのか?
はたまた怪しい宗教なのではないか?
確かに、多くの方が社会不安・健康不安を抱えるこのご時世、怪しげなものは幾らでも存在する。
現に私の田舎でも、「70万円で気のパワーを手に入れることができる。」などというものにお金を払ってしまった方がいるようだ。
多くは、配偶者やお子さんのご病気がきっかけであったりしたようだ。
「気」なんて、ものの運動と変化を見るための一指標でしかないので、不思議なものでも、あやかるものでもなんでもない。
簡単な例で言えば、水の変化などわかりやすいかもしれない。
水は液体である。
水が固まったものが氷。
氷に熱が加わり溶けていくことで液体に変わる。
さらに液体に熱が加わり、蒸発していくと気体に変わる。
気体が冷やされると、再び液体となって下に落ちていく。
河が流れ、海に注ぎ、雲となり、山や地面に雨となって降り注ぐ。
地面に染み込んだ水は、地下へ地下へと流れ、やがて川から河へ、そして海へ流れゆく。
自然には大循環が存在する。
そして、人間も循環というシステムで生きている。
出産をする女性の場合は、さらに自分の肉体の中においても、もうひとつ循環構造を持つ期間がある。
母(陰)と父(陽)という存在がまずあり、そして卵子と精子が受精をし、細胞分裂しながら(受精から8日目位に)着床する。
着床したところから胎盤が形成され、ここで母子間の血液の交換が行われる。
新しくできた小さな体の中では(受精後19日目位から)30日ほどかけながら心臓形成から、中枢神経形成、循環システムの結合がなされていく。
受精から266日目頃に、小さな体は生み出され呼吸をする。
(何千とある肺の中の肺胞嚢を、最初のひと吸いで膨らませなければならないため大仕事となるようだ。だから生まれたての赤ちゃんを見ると泣けてくるのだろうか?)
陰と陽があり、新しいものが生まれ、そこから新しい循環がはじまる。
この概念は多くの物事に当てはまるが、これをこのまま言うと抽象的すぎて「?」となってしまうので、説明が上手くなりたいものだと、いつもしみじみ思う、
…噴水の話から、ずいぶんと飛躍してしまったような気がするのは気のせいだろうか。